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進行性核上性麻痺とはどんな病気?診断から類似疾患まで解説します。

目次

概要

進行性核上性麻痺は、中年以降に発症する進行性の神経変性疾患です。脳の特定部位(中脳、大脳基底核、脳幹など)の神経細胞が徐々に失われることで、運動機能、眼球運動、認知機能などに障害が現れます。

主な症状

姿勢の不安定さと転倒: 特に発症早期から後ろに倒れやすい傾向が強く、突進現象(一度動き出すと止まりにくい)も見られます。

核上性注視麻痺: 最初は上下方向の眼球運動が障害され、進行すると左右方向にも広がります。これにより、スムーズに物を目で追うことが難しくなります。

パーキンソニズム: 動作が遅くなる(無動)、筋肉が硬くなる(筋強剛)などのパーキンソン病に似た症状が見られますが、安静時の振戦(ふるえ)はまれです。

認知機能障害: 思考の緩慢さ、注意力の低下、計画性の障害、感情の変化(抑うつ、無関心など)が見られます。

構音障害と嚥下障害: 話しにくさや飲み込みにくさが進行します。

首の後屈(項部ジストニア): 首が後ろに反り返る姿勢が見られることがあります。

仮面様顔貌: 表情が乏しくなります。

進行性核上性麻痺は、パーキンソン病よりも進行が早く、より重度の障害を引き起こすことが多いとされています。

診断

進行性核上性麻痺の診断は、主に臨床症状に基づいて行われます。国際的な診断基準があり、特徴的な症状の組み合わせと経過を評価します。

診断のポイント

  • 垂直性核上性眼球運動障害: 特に下方への注視麻痺は重要な特徴です。
  • 発症早期からの姿勢不安定さと易転倒性: パーキンソン病と比較して早期に出現しやすいです。
  • 体幹や頸部の筋強剛: 四肢よりも体幹や頸部に強く現れる傾向があります。
  • レボドパ(パーキンソン病薬)への反応が乏しい: パーキンソン病との鑑別に重要です。

除外項目

パーキンソン病、脊髄小脳変性症、多系統萎縮症、大脳皮質基底核変性症が類似疾患になるので、これらを除外することは必須です。

検査

診断を補助し、他の疾患を除外するために、以下のような検査が行われることがあります。

頭部MRI検査: 脳の萎縮の程度や部位を確認します。進行した例では、中脳の萎縮が特徴的で、矢状断像で「ハチドリ」や「皇帝ペンギン」のような形に見えることがあります。

脳血流シンチグラフィー(SPECT): 脳の血流分布を調べ、特に前頭葉の血流低下などが認められることがあります。

ドパミントランスポーターシンチグラフィー(DATスキャン): パーキンソン病との鑑別に用いられます。進行性核上性麻痺では、パーキンソン病ほど線条体のドパミントランスポーターの取り込み低下が見られないことが多いです。

MIBG心筋シンチグラフィー: 自律神経系の機能を評価し、パーキンソン病との鑑別に役立つことがあります。進行性核上性麻痺では異常が見られないことが多いです。

血液検査: 甲状腺機能異常やビタミン欠乏など、他の病気の可能性を調べるために行われることがあります。

神経心理学的検査: 認知機能の状態を詳しく評価します。

治療

残念ながら、進行性核上性麻痺の根本的な治療法は現在のところ確立されていません。治療は、症状の緩和と進行の抑制、生活の質の維持を目的とした対症療法が中心となります。

薬物療法

  • パーキンソン病治療薬(レボドパなど): 一時的に筋強剛や動作緩慢に効果がある場合がありますが、効果は限定的で持続しないことが多いです。
  • 抗うつ薬: 抑うつ症状や感情の不安定さに対して用いられることがあります。
  • その他の薬剤: 症状に応じて、睡眠薬、便秘薬などが用いられることがあります。

非薬物療法(リハビリテーションなど)

理学療法: バランス訓練、歩行訓練、筋力維持訓練などを行い、転倒予防や日常生活動作の維持を目指します。

作業療法: 日常生活動作の工夫や、自助具の利用などを検討し、生活の質の維持を支援します。

言語療法: 構音障害や嚥下障害に対して、発声訓練や嚥下訓練を行います。

嚥下食の工夫: 嚥下機能に合わせて、食事の形態を調整します。

転倒予防対策: 環境整備(手すりの設置、滑りやすいものの除去など)、保護帽の使用などが重要です。

その他

栄養管理: 嚥下障害が進行した場合は、経口摂取が困難になるため、胃ろうなどの栄養投与方法を検討することがあります。

呼吸管理: 病状が進行すると呼吸機能が低下することがあり、必要に応じて呼吸補助が行われます。

進行性核上性麻痺は進行性の病気であり、徐々に日常生活に介助が必要となることが多いです。患者さんとご家族が安心して療養できるような医療・介護体制を整えることが重要です。

進行性核上性麻痺と鑑別が必要な疾患

進行性核上性麻痺は、パーキンソン症状や運動障害を呈するため、他の神経変性疾患やパーキンソン症候群との鑑別が重要です。主な類似疾患として以下が挙げられます。

  1. パーキンソン病(PD)
     PSPと最も鑑別が必要な疾患です。PDも動作緩慢、固縮、姿勢保持障害を呈しますが、特徴的には振戦(手のふるえ)が目立ち、眼球運動障害はほとんどありません。また、パーキンソン病ではL-DOPAに反応しやすいのに対し、進行性核上性麻痺では効果が限定的です。
  2. 多系統萎縮症(MSA)
     多系統失調症は自律神経障害(起立性低血圧、排尿障害)が早期から出現することが多く、進行性核上性麻痺の垂直眼球運動障害や早期転倒とは異なる臨床像を示します。小脳失調が顕著な場合はMSA-C型、パーキンソン症状が主体の場合はMSA-P型との区別が必要です。
  3. レビー小体型認知症(DLB)
     認知機能低下や幻視、パーキンソン症状を呈するため、進行性核上性麻痺と混同されることがあります。しかし、レビー小体型認知症では認知変動や視覚幻覚が早期に現れるのが特徴で、眼球運動障害や早期転倒や進行性核上性麻痺ほど目立ちません。
  4. 皮質基底核変性症(CBD)
     片側の筋強剛、痙縮、失行が主体で、進行性核上性麻痺と症状が重なることがあります。しかし大脳基底核変性症では典型的に非対称性が強く、眼球運動障害やバランス障害の進行パターンが進行性核上性麻痺とは異なります。
  5. その他の二次性パーキンソン症
     薬剤性パーキンソン症、正常圧水頭症、脳血管性パーキンソン症なども鑑別対象です。薬剤性では投与歴が重要で、正常圧水頭症では歩行障害、尿失禁、認知障害の三徴候が特徴的です。

PSPの診断では、垂直性眼球運動障害、早期転倒、姿勢保持障害、L-DOPA非反応性などの特徴をもとに、これら類似疾患との詳細な臨床評価と画像検査(MRIでの中脳萎縮や「ハミングバードサイン」など)で区別することが必要です。

どの科を受診するべきか

進行性核上性麻痺(PSP)は、運動障害や姿勢保持障害、眼球運動の異常などを特徴とする神経変性疾患です。初期症状として、立ち上がりや歩行の困難、転倒しやすさ、首や体のこわばり、目の上下運動の制限などが現れます。診断・治療を受ける場合は、まず脳神経内科を受診するのが適切です。脳神経内科では、神経学的診察、歩行や姿勢の評価、眼球運動検査などを行い、必要に応じてMRIや血液検査で他の疾患との鑑別を行います。PSPは根治療法がなく、症状進行を遅らせる対症療法やリハビリテーションが中心となるため、脳神経内科医による長期的な管理と理学療法士・作業療法士との連携が重要です。また、誤嚥や転倒リスクへの対応も含めた多職種医療が推奨されます。

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