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色々ある抗菌薬。どのように選ぶ?

抗菌薬(抗生物質)は、細菌による感染を治療するための薬です。抗菌薬は、作用する対象や作用機序に応じていくつかの種類に分類されます。この記事を読まれている方は、体調の悪い方、医療従事者など様々だと思います。今回は主な抗菌薬の種類、そして具体的な使用例を説明していこうと思います。まず、抗菌薬の治療対象となる、細菌感染症に関してお話します。

細菌感染症とは

細菌が体内に侵入・増殖し、症状や病気を引き起こす状態 を指します。
「感染症」の原因には大きく分けて、

  • ウイルス
  • 細菌
  • 真菌(カビ類)
  • 原虫 など
    がありますが、その中で 細菌が原因のもの が「細菌感染症」です。

細菌の特徴

  • 大きさは 約1µm(1/1000mm) と、ウイルスよりずっと大きい
  • 自分で増える能力を持っている
  • 人体に害を与えるものもあれば、腸内細菌のように有益なものもある

主な細菌感染症の例

  • 呼吸器系:肺炎(肺炎球菌、マイコプラズマなど)、結核
  • 消化器系:食中毒(サルモネラ、大腸菌、カンピロバクター)
  • 泌尿器系:膀胱炎、腎盂腎炎(大腸菌など)
  • 皮膚:蜂窩織炎、伝染性膿痂疹(とびひ)
  • 全身:敗血症、髄膜炎(髄膜炎菌、リステリアなど)

細菌感染症の症状の特徴

  • 発熱
  • 倦怠感
  • 局所の炎症(赤み・腫れ・痛み・膿)
  • 白血球↑、CRP↑など炎症反応の上昇

ウイルス感染症に比べて、膿や強い炎症を起こして全身症状を認めることが多いです。


抗菌薬とは?

抗菌薬とは、細菌による感染症を治療・予防するために使われる薬のことです。抗生物質とほとんど同義と考えて問題ないです。

項目説明
対象細菌による感染症(例:肺炎、膀胱炎、中耳炎など)
効果細菌の増殖を抑える or 殺菌する
効かない相手ウイルス(例:風邪、インフルエンザ)、真菌(カビ)、寄生虫 など
投与方法経口(飲み薬)、注射、点滴、外用薬(塗り薬)など

1. ペニシリン系

例: ペニシリンG、アモキシシリン

作用機序: 細菌の細胞壁の合成を阻害し、細菌を殺します。

特徴: 主にグラム陽性菌に対して効果があります。比較的副作用が少ないですが、一部の人にアレルギーを引き起こすことがあります。

2. セフェム系(セファロスポリン系)

例: セファゾリン、セフトリアキソン

作用機序: ペニシリンと同様、細菌の細胞壁を攻撃しますが、ペニシリンより広い範囲の細菌に効果があります。

特徴: 第一世代から第四世代まであり、世代が進むにつれて広いスペクトラム(作用範囲)を持ちます。

3. マクロライド系

例: エリスロマイシン、クラリスロマイシン

作用機序: 細菌のタンパク質合成を阻害します。

特徴: 主にペニシリンアレルギーの患者に使用され、細胞内に寄生する細菌(マイコプラズマ、クラミジアなど)にも効果があります。

4. テトラサイクリン系

例: ドキシサイクリン、ミノサイクリン

作用機序: 細菌のタンパク質合成を阻害します。

特徴: グラム陽性菌、陰性菌、非定型細菌に幅広く効果があり、リケッチア、クラミジアなどにも使用されます。ただし、歯や骨への影響があるため、妊婦や子供には避けるべきです。

5. ニューキノロン系

例: レボフロキサシン、シプロフロキサシン

作用機序: DNA合成を阻害し、細菌の増殖を止めます。

特徴: 広範囲の細菌に対して効果があり、特に尿路感染症や呼吸器感染症に使われます。ただし、副作用として腱断裂のリスクが報告されています。

6. アミノグリコシド系

例: ゲンタマイシン、アミカシン

作用機序: 細菌のタンパク質合成を阻害します。

特徴: グラム陰性菌に対して非常に強力ですが、腎毒性や耳毒性があり、慎重な使用が求められます。

7. グリコペプチド系

例: バンコマイシン

作用機序: 細胞壁合成を阻害します。

特徴: 主に多剤耐性グラム陽性菌(MRSAなど)に対して使用されます。

8. サルファ剤(スルホンアミド系)

例: スルファメトキサゾール、トリメトプリム

作用機序: 細菌の葉酸合成を阻害し、細菌の成長を抑えます。

特徴: 尿路感染症や特定の寄生虫感染症に使用されます。

9. カルバペネム系

例: イミペネム、メロペネム

作用機序: 細胞壁の合成を阻害します。

特徴: 非常に広いスペクトラムを持ち、重篤な感染症や多剤耐性菌に対して使用されます。

10. リネゾリド系

例: リネゾリド

作用機序: タンパク質合成を阻害します。

特徴: 主にグラム陽性菌、特に多剤耐性菌に対して使用されます。


では、これらの抗菌薬はどのように使い分けるのでしょうか?

抗生物質の使い分け方

(1) ペニシリン系

  • 代表薬剤:アモキシシリン、アンピシリン
  • 適応:
    • 上気道感染症(扁桃炎、中耳炎、副鼻腔炎)
    • 溶連菌感染症
    • 肺炎(一部)
    • 蜂窩織炎(皮膚感染)
  • 特徴:
    • 細胞壁を破壊する作用があり、主にグラム陽性菌に有効。
    • 比較的安全性が高いが、アレルギー反応に注意。

(2) セフェム系

  • 代表薬剤:セファゾリン、セフジニル、セフトリアキソン
  • 適応:
    • 重症感染症(肺炎、尿路感染症、腹膜炎)
    • 外科手術の感染予防
    • 中耳炎や咽頭炎
  • 特徴:
    • ペニシリンと同様に細胞壁を攻撃するが、ペニシリン耐性菌にも有効。
    • 世代ごとにスペクトルが異なる(第1~第4世代)。

(3) マクロライド系

  • 代表薬剤:クラリスロマイシン、アジスロマイシン
  • 適応:
    • マイコプラズマやクラミジアによる肺炎
    • 百日咳
    • ペニシリンアレルギーの代替
  • 特徴:
    • 細菌のタンパク質合成を阻害する。
    • 比較的副作用が少なく、幅広い感染症に対応。

(4) テトラサイクリン系

  • 代表薬剤:ドキシサイクリン、ミノサイクリン
  • 適応:
    • リケッチア感染症(マダニ媒介の疾患など)
    • ニキビ
    • クラミジア感染症
  • 特徴:
    • 細菌のタンパク質合成を阻害する。
    • 妊婦や小児には使用を避ける(歯や骨への影響があるため)。

(5) ニューキノロン系

  • 代表薬剤:レボフロキサシン、シプロフロキサシン
  • 適応:
    • 尿路感染症
    • 腸管感染症(例:細菌性下痢)
    • 呼吸器感染症
  • 特徴:
    • 細菌のDNA合成を阻害する。
    • 幅広いスペクトルを持つが、耐性菌が増加しているため慎重に使用。

(6) アミノグリコシド系

  • 代表薬剤:ゲンタマイシン、アミカシン
  • 適応:
    • 重症感染症(敗血症、腹腔内感染症など)
  • 特徴:
    • タンパク質合成を阻害。
    • 腎毒性や聴神経障害のリスクがあるため、慎重に使用。

(7) サルファ薬(スルファ剤)

  • 代表薬剤:スルファメトキサゾール、トリメトプリム
  • 適応:
    • 尿路感染症
    • ニューモシスチス肺炎(HIV患者など)
  • 特徴:
    • 細菌の葉酸代謝を阻害。

(8) グリコペプチド系

  • 代表薬剤:バンコマイシン
  • 適応:
    • メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症
    • 難治性のグラム陽性菌感染症
  • 特徴:
    • 細胞壁合成を阻害。
    • 点滴での使用が主で、腎毒性に注意。

次に症状ごとの抗菌薬投与例を、いくつか紹介します。(下記例以外にも適切な抗菌薬はあります)

病気(症状)ごとの、抗菌薬投与例

1. 肺炎(市中肺炎)

  • 原因菌(推定):肺炎球菌、インフルエンザ菌、マイコプラズマなど
  • 軽症〜中等症(外来)
    • 抗菌薬:クラリスロマイシン 200 mg 1日2回 経口投与 7日間
    • または アモキシシリン+クラブラン酸 1日3回 経口投与
  • 重症(入院)
    • 抗菌薬:セフトリアキソン 1~2 g 1日1回 静注 + マクロライド系抗菌薬(例:アジスロマイシン)

2. 尿路感染症(膀胱炎など)

  • 原因菌(推定):大腸菌など
  • 軽症(非複雑性膀胱炎)
    • 抗菌薬:レボフロキサシン 500 mg 1日1回 経口 3〜5日間
  • 重症(腎盂腎炎など)
    • 抗菌薬:セフトリアキソン 1 g 静注 1日1回 + 入院加療

3. 蜂窩織炎(皮膚・軟部組織感染症)

  • 原因菌:黄色ブドウ球菌、A群溶血性レンサ球菌など
  • 軽症
    • 抗菌薬:セファレキシン(第1世代セフェム)500 mg 経口 1日4回
  • 重症(入院対象)
    • 抗菌薬:セファゾリン 1 g 静注 1日3回、もしくはバンコマイシン(MRSA疑いがある場合)

4. 敗血症(原因菌不明)

  • 抗菌薬(経験的治療)
    • ピペラシリン/タゾバクタム 4.5 g 静注 1日3回
    • ± バンコマイシン(MRSAカバー目的)


抗生物質投与の際の注意点

  • 不要な使用を避ける:抗生物質は細菌感染症にのみ有効です。ウイルス性の風邪やインフルエンザには効果がありません。
  • 指示通りの服用:途中で服用をやめると耐性菌が発生する可能性があります。
  • 副作用に注意:下痢、アレルギー反応、腎障害などが起こることがあります。
  • 多用による、薬剤耐性菌の出現の可能性

耐性菌とは?

通常、抗菌薬は細菌の増殖を抑えたり、殺したりする薬です。しかし、細菌の中には抗菌薬が効かない性質を持つ変異株がまれに現れます。こうした抗菌薬が効かない細菌のことを「耐性菌」と呼びます。

抗菌薬投与によって耐性菌が生まれる仕組み

  • 抗菌薬(経験的治療)
    • ピペラシリン/タゾバクタム 4.5 g 静注 1日3回
    • ± バンコマイシン(MRSAカバー目的)
  1. 抗菌薬を使うと、感受性のある普通の菌は死滅します。
  2. しかし、もともとその抗菌薬に「少し強い性質(耐性)」をもっていた菌は生き残ります。
  3. 生き残った耐性菌が増殖し、体内や周囲に広がることで、治療が難しくなります。

抗菌薬の「使いすぎ」や「中途半端な使い方」は、この耐性菌を増やす大きな原因です。

なぜ問題なのか

  • 治療が効かなくなる
     → 一度は効いていた薬が効かず、他の強い薬を使う必要が出てきます。
  • 重症化・死亡率の上昇
     → 治療が長引き、感染が制御できなくなるリスクが高まります。
  • 感染の拡大
     → 耐性菌は病院内・施設内で広がると集団感染(アウトブレイク)を起こすこともあります。

代表的な耐性菌

  • MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
  • VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)
  • ESBL産生菌(セフェム系抗菌薬に耐性)
  • CRE(カルバペネム耐性腸内細菌)

これらは日本を含む世界中で問題視されています。

耐性菌えをつくらないために気をつけること

  1. 抗菌薬は必要なときにのみ使う(風邪やウイルス感染には不要)
  2. 決められた用法・用量・期間を守る
  3. 自己判断で途中でやめない、追加しない
  4. 医療機関では抗菌薬適正使用(ASP)が推進されています
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