メニュー

物忘れ=認知症なのか?正常と異常の境界について解説します。

最近、「あれ、何をしようとしたんだっけ?」とか、「人の名前がすぐに出てこない」など、物忘れが増えたと感じて不安になっている方は多いのではないでしょうか。年齢を重ねると、誰でも記憶力は衰えるものですが、単なる「年のせい」として見過ごしてはいけない物忘れもあります。特に、日常生活に支障が出るほどの物忘れは、認知症をはじめとする何らかの病気が原因で起こっている可能性があります。認知症は一つの病気ではなく、脳の病気や障害などによって、記憶力や判断力といった認知機能が低下し、生活に支障が出ている状態を指します。

認知症の原因となる病気で最も多いのは、アルツハイマー型認知症です。この病気では、記憶障害が最も初期に目立つ症状として現れます。しかし、物忘れの原因となる病気は認知症だけではありません。例えば、脳の血管が詰まったり出血したりする脳血管性認知症や、甲状腺の病気、ビタミン不足、うつ病など、認知症ではない病気が原因で物忘れや認知機能の低下が起きることもあります。これらの病気の中には、適切な治療をすれば症状が改善する可能性があるものも含まれています。そのため、「単なる歳のせい」と決めつけずに、「以前と比べておかしいな」と感じたら、その物忘れがどんな種類のものなのか、他に症状がないかを詳しく観察することが大切です。

このブログでは、病気が原因で起こる物忘れにはどのような種類があり、どんな病気が隠れている可能性があるのか、そして早期に気づくためのポイントについて解説していきます。正確な情報を知ることが、早期の発見と対処への第一歩となります

目次

認知症とは?

認知症とは、記憶力や判断力、思考力、言語能力などの脳の認知機能が低下し、日常生活に支障をきたす状態を指します。加齢に伴って発症することが多く、高齢者で特に見られる症状ですが、若年で発症するケースもあります。認知症は病名そのものではなく、症状の総称であり、原因となる病気によって分類されます。

代表的なものにアルツハイマー型認知症があります。これは脳内に異常なたんぱく質が蓄積することで神経細胞が徐々に減少し、記憶障害から始まり、判断力や生活能力の低下、感情の変化などが進行します。次に血管性認知症は、脳の血管が詰まったり破れたりすることで脳の一部に障害が起こり、その影響で認知機能が低下するタイプです。こちらは症状の出方が段階的で、発症時期や進行の仕方にばらつきがあります。その他、レビー小体型認知症や前頭側頭型認知症なども知られています。

症状は大きく分けて「中核症状」と「周辺症状」に分類されます。中核症状には記憶障害、言語障害、判断力低下、見当識障害などがあります。周辺症状には不安や抑うつ、徘徊、攻撃的行動などがあり、本人だけでなく周囲の生活にも大きな影響を与えます。初期には物忘れや判断の誤りなど軽度の症状が中心ですが、進行すると日常生活での着替えや食事、金銭管理なども自力で行うことが難しくなります。

診断は、医師による問診や認知機能検査、血液検査、脳の画像検査(CTやMRI)などを組み合わせて行います。早期診断は進行を遅らせるために重要であり、生活環境の調整や薬物療法、リハビリテーションなどを組み合わせることで症状の悪化を抑えることが可能です。また、認知症の理解とサポート体制の整備は、本人の生活の質を維持するうえで非常に重要です。家族や介護者の支援、地域社会の協力も必要となります。認知症は誰にでも起こり得る病気であり、早期発見と適切な対応が、本人や家族の生活を守る鍵となります。

正常範囲内の物忘れとは

誰もが経験する「物忘れ」の中には、病気ではなく、年齢を重ねることによる自然な変化として起こるものがあります。これが正常範囲内の物忘れ、あるいは加齢による物忘れと呼ばれるものです。これは、体が年を取るにつれて筋力が衰えるのと同じように、脳の機能、特に記憶力の一部が低下するために起こる現象です。この正常な物忘れと、認知症などの病気による物忘れを区別することは、不安を解消し、適切な対処をする上で非常に重要です。

1.体験の「一部」を忘れる

加齢による物忘れの最も大きな特徴は、体験したことの「全体」ではなく「一部」を忘れるという点です。例えば、「昨日夕食を食べたこと」という体験全体は覚えているのに、「夕食に何を食べたか」という詳細な内容だけを思い出せないといった場合です。また、「知人の顔はわかるが、名前がどうしても思い出せない」「物をどこに置いたか思い出せないが、置いたという行為自体は覚えている」といったケースもこれにあたります。

これに対し、病気による物忘れ、特にアルツハイマー病などでは、体験したこと自体を丸ごと忘れてしまうという特徴があります。例えば、食事をしたこと自体を忘れ、食後すぐに「まだご飯を食べていない」と訴えたり、約束をしたこと自体を忘れてしまったりする場合です。

2.物忘れの自覚がある

加齢による物忘れの人は、自分が物忘れをしていることを自覚しているという特徴があります。そのため、「最近、物忘れが増えて困る」「思い出せなくて情けない」といった不安や焦りを感じることが多いです。また、人から「さっき言ったよ」などとヒントを与えられると、「ああ、そうだった」と思い出せることも多いです。

一方で、認知症による物忘れでは、病気が進行すると、自分が忘れていること自体を認識できなくなることが多くなります。そのため、忘れていることを指摘されても、思い出せないだけでなく、「そんなことは言っていない」と事実を否定してしまうことがあります。

3.日常生活に大きな支障がない

加齢による物忘れは、記憶力の一部が低下しても、物事を論理的に考えたり、計画を立てて実行したりする能力(判断力や実行機能)は保たれているため、日常生活や社会生活に大きな支障をきたすことはありません。長年続けてきた仕事や趣味、家事などは問題なくこなすことができます。また、時間や場所、人間関係を認識する能力も保たれています。

病気による物忘れは、記憶力以外にも判断力や実行機能といった他の認知機能も低下するため、物事を順序立てて処理できなくなったり、慣れた道で迷ったりするなど、日常生活に明らかな支障が出てきます。

4.進行が非常に緩やか

加齢による物忘れは、記憶力の低下が非常にゆっくりと進行する、自然な老化現象です。訓練や生活習慣の改善によって進行を遅らせることも可能です。これに対して、認知症による物忘れは、比較的早いスピードで進行していく傾向があります。

このように、正常な範囲の物忘れと病気による物忘れには明確な違いがあります。物忘れが増えても、体験の一部を忘れるだけで、忘れている自覚があり、日常生活に支障がない場合は、過度に心配する必要はありません。しかし、少しでも「これまでの物忘れと違う」と感じた場合は、念のため医療機関に相談することが大切です。

認知症は治るのか?

認知症は基本的に「完全に治す」ことが難しい病気とされています。これは、認知症の多くが脳の神経細胞の変性や脱落によって起こるため、一度失われた神経細胞を元に戻すことが現時点では困難だからです。ただし、認知症の原因となる病気の種類によっては、進行を遅らせたり、症状を軽減したりできる場合があります。

代表的なアルツハイマー型認知症では、根本的な治療法はまだ確立されていませんが、病気の進行を遅らせる薬があります。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンなど)やNMDA受容体拮抗薬(メマンチン)が使用され、記憶障害や判断力の低下などをある程度抑える効果があります。また、近年ではアミロイドβという異常たんぱく質の蓄積を抑える抗体薬(レカネマブなど)が登場し、早期の段階であれば進行を遅らせる可能性があると報告されています。

血管性認知症の場合は、脳の血流障害が原因となるため、高血圧や糖尿病、高脂血症などの生活習慣病をしっかり治療し、再発を防ぐことが重要です。このタイプは原因をコントロールすることで新たな障害の発生を防ぎ、結果的に症状の進行を緩やかにできます。レビー小体型認知症や前頭側頭型認知症でも、幻視や興奮などの症状を和らげる薬物療法や環境調整が行われますが、根本的な治療はやはり難しいのが現状です。

一方で、治るタイプの「仮性認知症」や「治療可能な認知症」も存在します。たとえば、ビタミンB12欠乏症、甲状腺機能低下症、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症などが原因の場合、適切な治療によって症状が改善することがあります。このため、認知症が疑われた際には、必ず原因を正確に調べることが重要です。

認知症の治療では、薬物療法だけでなく、リハビリや生活習慣の改善、家族や介護者による支援が欠かせません。規則正しい生活、バランスの取れた食事、適度な運動、社会的な交流などが脳の健康維持に役立ちます。完全に治すことは難しくても、早期発見と適切な対応によって、症状の進行を遅らせ、本人の生活の質をできる限り保つことが可能です。

認知症になってしまった方への対応

認知症の方への対応では、まず相手の立場に立ってゆっくりと接することが大切です。認知症の方は記憶力や判断力が低下しているため、混乱や不安を感じやすくなっています。叱ったり急かしたりせず、穏やかな口調で話しかけるようにしましょう。また、一度に多くのことを伝えるのではなく、短くわかりやすい言葉でゆっくり説明することが効果的です。環境を整えることも大切で、物の位置を変えない、明るさを保つ、時計やカレンダーを見やすくするなど、安心して過ごせる工夫を行います。できないことを責めるのではなく、できることを一緒に見つけて支える姿勢が重要です。介護する側も無理をせず、専門家や地域の支援サービスを活用しながら、長く穏やかに関わっていくことが望まれます。


監修 医師:今野正裕

新宿、西新宿の内科、発熱外来、脳神経内科、整形外科は西新宿今野クリニックへ。予約はこちら

よかったらシェアしてください!
  • URLをコピーしました!
目次