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社会問題となっている認知症。治らない?治療薬はあるのか?

高齢化が進む現代社会において、認知症は多くの人々とその家族に影響を及ぼす重要な健康課題です。認知症とは、記憶力や判断力、思考力、日常生活の機能が徐々に低下していく状態を指し、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症、レビー小体型認知症など、さまざまな種類があります。初期には物忘れや些細な判断ミスが目立つ程度ですが、進行すると生活の自立が困難になり、日常のサポートが必要となります。

症状の早期発見と正しい診断は、進行を遅らせる治療や生活支援の計画に不可欠です。本記事では、認知症の種類や特徴、症状の現れ方、診断の方法や治療・生活面での工夫についてわかりやすく解説し、患者本人だけでなく家族も含めた日常生活の質を維持するためのポイントを紹介します。認知症について正しい理解を深めることで、適切な対応や予防策を考える手助けとなります。

目次

認知症の原因

認知症にはさまざまな原因があり、代表的なものを以下に紹介します。

1. アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、認知症の中で最も多く見られるタイプで、脳の神経細胞が徐々に減少し、記憶や認知機能が低下していく疾患です。初期には新しい出来事の記憶が特に障害され、物忘れや同じことを繰り返す行動が目立つことがあります。また、物の置き忘れや道に迷うなどの症状も現れ、日常生活に徐々に支障が出てきます。

病態の特徴として、脳内にアミロイドβの蓄積やタウ蛋白の異常が生じ、神経細胞の働きが阻害されることが知られています。進行すると、記憶だけでなく判断力や計算力、言語能力も低下し、会話や買い物、金銭管理など日常生活の自立が難しくなります。また、感情のコントロールや社会的行動の変化が現れることもあり、家族や介護者への負担が増す場合があります。

治療は、進行を遅らせるコリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬などの薬物療法や、生活環境の工夫、リハビリテーションによる認知機能維持が中心です。早期発見・早期対応が症状の悪化を抑える鍵となるため、物忘れの程度や日常生活での変化に注意し、必要に応じて医療機関での診断を受けることが重要です。

2. レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、認知症の一種で、脳内にレビー小体と呼ばれる異常なたんぱく質の沈着が生じることにより、神経細胞の働きが障害される疾患です。アルツハイマー型と並んで高齢者に多く見られますが、特徴的な症状として認知機能の変動、幻視や幻覚、パーキンソン症状が挙げられます。特に認知機能は日によって変動することがあり、注意力や判断力の波が見られるのが特徴です。また、レム睡眠行動異常や自律神経症状(立ちくらみ、便秘、排尿障害など)も現れることがあります。アルツハイマー型とは異なり、記憶障害は初期では比較的軽度で、幻覚や運動症状が目立つ場合があります。そのため、早期診断と適切な薬物療法の選択が重要です。

治療には、認知症症状に対するコリンエステラーゼ阻害薬や、パーキンソン症状に対するドパミン作動薬が用いられますが、抗精神病薬には過敏に反応しやすく、副作用のリスクが高いため注意が必要です。また、生活環境の調整や家族・介護者への支援も症状の悪化を防ぐうえで重要です。レビー小体型認知症は多彩な症状を呈するため、総合的な医療とケアが求められます。

3. 血管性認知症

血管性認知症は、脳の血流障害によって神経細胞が損傷を受けることで発症する認知症で、脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患が原因となることが多いです。アルツハイマー型認知症とは異なり、症状の現れ方が比較的急で、発症のタイミングが明確なことがあります。また、症状は脳の損傷部位や範囲によって異なり、記憶障害だけでなく、判断力や注意力の低下、感情の不安定、言語障害、歩行障害など多様な症状が現れます。

特徴的なのは、症状が段階的に進行する階段状の進行を示すことです。小さな脳梗塞が複数回起こることで認知機能が徐々に低下していくため、症状の悪化が突発的に見えることもあります。また、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などの生活習慣病がリスク因子となることが多く、予防や再発防止が重要です。

治療は、アルツハイマー型認知症と同様にコリンエステラーゼ阻害薬が用いられることもありますが、基本は脳血管疾患の予防・管理が中心です。血圧や血糖、脂質のコントロール、抗血小板薬の使用、生活習慣改善によって再発や症状の進行を抑えることが、血管性認知症の管理において重要なポイントとなります。

4. 前頭側頭型認知症(ピック病)

前頭側頭型認知症(FTD: Frontotemporal Dementia)は、脳の前頭葉や側頭葉の神経細胞が障害されることで発症する認知症で、特に人格・行動の変化や言語障害が初期から目立つのが特徴です。アルツハイマー型認知症のような記憶障害は初期には軽度であることが多く、日常生活での問題は行動や社会的判断の異常として現れることが多いです。代表的な例として、ピック病があります。ピック病では、前頭葉の萎縮やタウ蛋白の蓄積が認められ、感情の抑制が効かず、無計画な行動や社会的マナーの逸脱、無関心や衝動的な言動が見られることがあります。

また、側頭葉の障害によって言語能力の低下が起こり、言葉の理解や会話が困難になることもあります。進行すると日常生活の自立が困難になり、家族や介護者の支援が不可欠となります。治療は現在のところ根本的に神経細胞の減少を止める方法はなく、症状を和らげる薬物療法や行動管理、環境調整が中心です。抗精神病薬や気分安定薬が一部症状に用いられることもあります。前頭側頭型認知症は、記憶よりも行動や人格の変化が顕著であるため、周囲の理解と早期対応が、患者の生活の質を維持するうえで非常に重要です。

5. アルコール性認知症

アルコール性認知症は、長期間にわたる大量の飲酒によって脳が障害され、認知機能が低下する疾患です。慢性的なアルコール摂取は、神経細胞の直接的な毒性や栄養不足、特にビタミンB1の欠乏を引き起こし、脳の萎縮や神経回路の障害をもたらします。その結果、記憶障害、判断力低下、注意力低下、計算や言語の困難など、日常生活に支障をきたす症状が現れます。

特徴的には、短期記憶の障害が目立ち、新しい情報の習得や作業の遂行が難しくなることが多いです。また、感情のコントロールや社会的行動の異常が現れることもあり、家庭や職場でのトラブルにつながる場合があります。アルコール性認知症は他の認知症と比べて、症状が可逆的で改善する可能性がある点が特徴です。アルコールの摂取を中止し、栄養状態を改善することで、認知機能が部分的に回復することがあります。

治療は、まず禁酒とビタミンB1を中心とする栄養補給が基本であり、必要に応じて薬物療法やリハビリテーションによる認知機能の維持が行われます。また、家族や周囲のサポートも重要で、生活習慣の改善と再発予防が、症状改善と生活の質向上に直結します。

6. その他の原因

パーキンソン病、慢性疾患(糖尿病、甲状腺機能低下症など)、脳外傷で認知機能低下することがあります。

認知症の症状

認知症の症状は人によって異なりますが、共通して見られるものとして以下のような症状があります。

  • 記憶障害: 最近の出来事や人の名前を忘れる、同じことを繰り返し話す。
  • 判断力の低下: 日常生活の中での判断ができなくなる(例:お金の管理ができなくなる)。
  • 言語障害: 言葉がうまく出てこない、会話の途中で言葉が思い出せない。
  • 時間や場所の混乱: 日付や場所を忘れる、現在の場所を認識できなくなる。
  • 情緒の不安定: 突然の気分の変化、感情的になりやすい。
  • 物の位置を忘れる: 普段使う物がどこにあるか分からなくなる。
  • 社会的な孤立: 人との交流を避ける、興味を持たなくなる。

認知症の診断

認知症の診断は、医師による詳細な問診、認知機能検査(MMSEなど)、血液検査や画像診断(CT、MRIなど)を通じて行われます。これにより、認知症の原因を特定し、適切な治療法を決定します。

認知症の治療に使用される薬には、主にアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症に対して症状を改善する薬が中心です。これらの薬は認知症の進行を遅らせたり、症状の一部を緩和したりすることが目的で、完全に治癒するものではありません。以下は、主な認知症治療薬の種類です。

認知症の薬

1. コリンエステラーゼ阻害薬

コリンエステラーゼ阻害薬は、認知症治療に用いられる薬で、特にアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症で効果が期待されます。脳内では神経伝達物質のアセチルコリンが記憶や学習、注意力に重要な役割を果たしていますが、認知症ではこのアセチルコリンの量が減少します。コリンエステラーゼ阻害薬は、アセチルコリンを分解するコリンエステラーゼという酵素の働きを抑えることで、神経伝達物質の濃度を高め、認知機能の低下を緩やかにする効果があります。

代表的な薬には、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンなどがあります。服用により、記憶力や注意力、日常生活の自立度の維持に役立つことがありますが、症状の進行を完全に止めることはできません。副作用として、吐き気、食欲低下、下痢、めまいなどが報告されるため、医師の指導のもとで用量や服用方法を調整することが重要です。

2. NMDA受容体拮抗薬

NMDA受容体拮抗薬は、主にアルツハイマー型認知症の中等度~重度の症状改善に用いられる薬です。アルツハイマー型認知症では、脳内の神経細胞が損傷を受ける過程で、興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸が過剰に作用し、神経細胞にダメージを与えることがあります。NMDA受容体拮抗薬は、この過剰なグルタミン酸の刺激を抑えることで、神経細胞の損傷を防ぎ、認知機能の低下を緩やかにする働きを持っています。

代表的な薬にはメマンチンがあり、中等度から重度のアルツハイマー型認知症の患者で、記憶力や日常生活能力の維持に効果が期待されます。副作用は比較的少なく、めまいや頭痛、便秘などが報告されることがあります。コリンエステラーゼ阻害薬と併用されることも多く、異なる作用機序で認知症症状の進行を抑えるため、医師の指導のもとで用量や服薬方法を調整することが重要です。

3. 抗精神病薬

抗精神病薬は、認知症に伴う幻覚・妄想、興奮、攻撃的行動などの精神症状(BPSD: Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)を抑える目的で使用される薬です。レビー小体型認知症や前頭側頭型認知症では、幻覚や妄想、徘徊などが生活に大きな支障を与えることがあり、症状が強い場合に限定して処方されます。

代表的な薬には、リスペリドンやクエチアピンなどの非定型抗精神病薬が用いられ、副作用として眠気、ふらつき、筋肉のこわばり、まれにパーキンソン症状の悪化や心血管系の影響が起こることがあります。そのため、最小限の用量で短期間使用することが原則とされ、服薬中は症状の変化や副作用に注意する必要があります。また、薬物療法だけでなく、環境調整や生活リズムの改善など非薬物療法と併用することで、安全に症状をコントロールすることが重要です。

4. 抗うつ薬

抗うつ薬は、認知症に伴う抑うつや不安、気分の落ち込みなどの精神症状の改善を目的として使用されます。認知症患者では、記憶や判断力の低下だけでなく、気分の不安定や無気力、意欲低下が現れることがあり、生活の質を大きく左右します。抗うつ薬は、脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンの働きを調整することで、これらの症状を緩和します。

代表的な薬には、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や、ノルアドレナリン・セロトニン再取り込み阻害薬(SNRI)があり、副作用は吐き気、頭痛、眠気、便秘など比較的軽度です。ただし、高齢者ではふらつきや転倒リスク、薬物相互作用にも注意が必要です。抗うつ薬は認知症そのものの進行を止めるものではありませんが、気分症状の改善や生活の質向上に重要な役割を果たすため、医師の指導のもとで適切に使用することが大切です。

5. 抗不安薬・睡眠薬

認知症患者に見られる不安、興奮、睡眠障害に対して使用されることがあります。ただし、これらの薬は高齢者に対して慎重に使われるべきで、転倒や混乱などのリスクがあるため、短期間の使用に留めることが推奨されます。ジアゼパムなどは不安を抑えるために使われますが、依存性や副作用のリスクがあるため、注意が必要です

6. その他の薬

認知症治療の補助として使われる場合があります。例えば、血液の流れを良くする薬や、抗酸化作用を持つサプリメントなどが併用されることがあります。

生活習慣やリハビリとの併用

認知症の薬物治療は、認知機能の維持や生活の質の改善を目指して行われますが、生活習慣の改善や認知リハビリテーションも重要です。食事、運動、認知訓練などを併せて行うことで、治療効果を最大化することが期待されます。薬の使用は、患者一人ひとりの症状や進行度に応じて調整されるため、医師と相談して最適な治療を受けることが大切です。

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