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筋肉のぴくつきはALS?解説します。

今回は、筋肉のぴくつきについて書いていきます。
顔面や手足がぴくぴく動いた経験、ある方が多いと思います。
大体は時間が経てば、治ることが多いです。実は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)も、全身の筋肉のぴくつきを認めます。
つまり、危険な筋肉のぴくつきもあるということです。

ALSの概要

ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは、運動神経細胞(運動ニューロン)の障害により、全身の筋肉が萎縮し力が入らなくなる原因不明の難病です。ALSでは筋肉そのものに異常があるわけではなく、筋肉に指令を送る神経が障害されます。初めは歩きづらさや手の動かしづらさを感じる他、疲れやすいなどの症状が現れます。個人差はありますが、ALSは数ヶ月から数年かけて進行し、全身の筋萎縮が起きると目でコミュニケーションを行う機器の導入、呼吸筋が傷害されると人工呼吸器の導入が必要です。

診断には針心電図や筋超音波検査、X線やMRI・CTなどが有用です。必要に応じて骨髄検査や髄液検査を行い、末梢神経障害や筋障害など、他の神経疾患と区別します。ALSは原因不明な病気のため明確な治療法はありませんが、病気の進行を遅らせるために、リルゾールやエダラボンなどの治療薬が用いられます。その他、症状をやわらげる対症療法としてリハビリテーションを行うことも重要です。

ALSの経過と症状の進行

1. 初期

  • 手足の筋肉がやせて細かくピクつく
  • ボタンがかけにくい、歩きにくいなど、日常動作が少しずつ難しくなる
  • しびれや感覚障害は基本的に伴わない

2. 進行期

  • 筋力低下が広がり、手足の動きが制限される
  • やがて 立つ・歩く・手を使う などが難しくなる
  • 食べ物や水が飲み込みにくい嚥下障害、発音しにくい構音障害が出てくる
  • やせや体重減少が進む

3. 呼吸筋への影響

  • 横隔膜や呼吸筋が弱くなると、息苦しさ・夜間の無呼吸・呼吸不全が出現
  • この段階で 非侵襲的人工呼吸器(NPPV) や 気管切開・人工呼吸器 を導入することが多い

4. 末期

  • 自分で動けなくなり、会話や食事が困難になる
  • 意識はしっかりしているが、身体が動かせない「閉じ込め状態」に近づく
  • 呼吸不全が進むと生命維持に大きな影響

5.ALSの経過


  • 平均余命は 発症から3〜5年 と言われます。
  • 人工呼吸器を使用すれば、10年以上生きる方もいらっしゃいます
  • 研究の進歩で新薬も出ており、進行をある程度遅らせることが可能になってきています

5.ALSの経過


  • 平均余命は 発症から3〜5年 と言われます。
  • 人工呼吸器を使用すれば、10年以上生きる方もいらっしゃいます
  • 研究の進歩で新薬も出ており、進行をある程度遅らせることが可能になってきています

6.ALSの治療法と対処療法

  • 進行抑制薬:リルゾール、エダラボン
  • リハビリ:関節の拘縮や褥瘡の予防、QOL維持
  • 栄養サポート:胃ろう造設で誤嚥を防ぎ栄養確保
  • 呼吸管理:NPPVや人工呼吸器
  • 意思伝達支援:視線入力装置などのコミュニケーション機

どんな病気でぴくつきを認めるか?

1.筋萎縮性側索硬化症(ALS)

  • 進行性の神経変性疾患(運動ニューロン病の一種)。
  • 筋肉のぴくつきが初期症状として出ることがある。
  • 進行すると筋力低下・筋萎縮・呼吸障害などを伴う。
  • 神経内科での早期診断が重要。

2. 頸椎症、腰椎症、神経根圧迫

  • 脊髄や神経根が圧迫されることで、ぴくつき・しびれ・筋力低下などを起こすことがある。
  • しびれ・痛み・姿勢による変化があれば整形外科も考慮。

3. 多発性硬化症、視神経脊髄炎

  • 中枢神経(脳・脊髄)の自己免疫疾患。
  • しびれや脱力、視力障害などとともに筋肉の異常収縮を伴うことがある。

4.ギラン・バレー症候群

  • 感染後などに急激に手足がしびれ・筋力低下を起こす末梢神経の病気。
  • 初期に筋肉の異常な反応が出ることがある。

5.電解質異常(低カルシウム、低マグネシウム、低カリウムなど)

  • 血液中のミネラルバランスが崩れることで、神経や筋肉の興奮性が高まりぴくつきが起きる。
  • 脱力やけいれんを伴うことも。

6. 甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)

  • 手の震えや筋肉のぴくつき、動悸、発汗、体重減少などを伴うことがある。

7.薬剤性/カフェイン・栄養素不足

  • ステロイド、利尿薬、精神刺激薬などによる副作用。
  • ビタミンB群の欠乏(特にB1・B12)でも起こりうる。

つまり、ALS以外でもぴくつきを認める病気は、結構多いということです。では、ぴくつき=異常なのでしょうか?

良性のぴくつきで多い、眼瞼ミオキミア

眼瞼ミオキミアとは、瞼が自分の意思とは関係なくピクピクと細かくけいれんする状態を指します。医学的には「良性眼瞼ミオキミア(benign eyelid myokymia)」と呼ばれ、多くは一時的で自然におさまる良性の現象です。

眼瞼ミオキミアの特徴

  • 多くは 片側の下まぶたに起こる(上まぶたの場合もあり)
  • 数秒〜数分間、細かく連続してピクピク動く
  • 痛みや視力の異常はない
  • 数日〜数週間で自然に治まることが多い

しかし瞼のぴくつきと共に、目を開くことが出来なくなったら、注意が必要です。眼瞼ミオキミアの類似疾患である、眼瞼痙攣の可能性があります。眼瞼痙攣は自然治癒が難しく、薬物投与が必要となるため、早めに脳神経内科、脳神経外科、もしくは眼科を受診することを推奨します。


では手足のぴくつきで、良性のものはあるのでしょうか?

BFS(benign fasciculation syndrome)

BFS(Benign Fasciculation Syndrome:良性筋線維束攣縮症候群)とは、筋肉のぴくつき(筋線維束攣縮:fasciculation)を主症状とするが、筋力低下や萎縮などの神経変性疾患が見られない良性の神経症候群です。ALSなどの重篤な神経疾患と区別されるべき重要な疾患概念です。

項目内容
主症状筋肉のぴくつき(特にふくらはぎ・足・腕・まぶたなど)
その他の症状過敏性(筋肉のつっぱり感、不快感)、不安、疲れやすさなど
筋力正常(脱力や筋萎縮はなし)
神経所見基本的に異常なし
検査血液検査・神経伝導検査・筋電図などで異常を認めない
経過慢性で良性。数ヶ月〜数年持続することもあるが進行はしない

原因

はっきりとした原因はわかっていません。しかし、ストレスや不安(特にALSを心配する人に多い)、カフェイン・アルコールの摂取過多、睡眠不足、運動のしすぎ及びしなさすぎなどが、BFSの原因ではないかと考えられています。


ではBFSとALSのぴくつきは、どのような違いがあるのか。
前者は1ヶ所の筋肉で起きる、規則的で早いぴくつき、筋力低下を伴わないことが特徴です。対して後者は、全身の多くの筋肉に起き、不規則で遅いぴくつきで、筋力低下を伴うことが多いです。

実際BFSがALSに発展したことは、過去の研究ではないとされています。Alexandra Filippakis DO, Jordan Jara BS et al. A prospective study of benign fasciculation syndrome and anxiety. Muscle Nerve. 2018 Dec;58(6):852-854. 

病院受診をしたほうが良いケース

下記ような症状を伴うときは、脳神経内科の受診をおすすめします。

1. 症状が長く続くとき

  • 数週間以上ぴくつきが止まらない
  • 同じ部位で繰り返し起きる

2. 筋力低下や麻痺を伴うとき

  • コップを持てない、箸が使いにくい
  • 歩きにくい、足に力が入らない

3. 感覚異常を伴うとき

  • しびれ、感覚が鈍い、痛みがある

4. 全身に広がるとき

  • 片手や片足だけでなく、全身のあちこちで出る

5. その他の気になる症状

  • 言葉が出にくい、飲み込みにくい(脳や神経の病気の可能性)
  • 急な体重減少や倦怠感(全身性の病気の可能性)

ALSを疑ったら何科を受診して、どういう検査をするべき?

ALSを疑った場合は、脳神経内科の受診が適切です。

ALSを診断するには、他の類似疾患を除外しなくてはいけません。人間は、脳→脊髄→神経と刺激が伝わり、体を動かすことができます。このいずれかが障害されていると、体が動かない、麻痺を認めます。つまりALSの類似疾患とは、脳、脊髄、神経が障害される病気です。

ALSの診断で最初にすることは、病歴聴取と診察です。これらで、ALSかまたは他の病気か、見当をつけます。ALSの病歴の特徴は、「緩やかに麻痺が進行している」、「麻痺の範囲が時間と共に広がっている」「喋りにくさを感じる」です。ALSの診察の特徴は、「脳、脊髄、神経障害では説明がつかない麻痺の分布」、「上下肢の筋肉のぴくつき」、「腱反射亢進や病的反射(babinski反射など)」です。

次に、脳、脊髄、神経の病気の有無を調べる検査をします。脳と脊髄の病気を検査するには、MRIを施行します。神経の病気を検査するには、採血と神経伝導速度検査をします。神経伝導速度検査とはあまり馴染みがないかもしれませんが、体表から神経に電気を流して、そこから得られる波形を分析する検査です。病歴、診察、検査でALSが疑わしい場合、筋電図という検査をします。麻痺が強い筋肉に針を刺して、そこから得られる電気的活動を定量的に変換した波形を観察します。概ね1時間前後かかる検査です。

このようにALSの診断をするには、時間がかかります。
そしてALSという病気は、重い病気です。家族のサポートも必須となります。

そして今後の方針、具体的には呼吸がしにくくなったら人工呼吸器を、食事が出来なくなったら胃瘻を装着するかどうかも決める必要があります。なので病名の告知は、家族にも同席してもらい、最大限プライバシーに配慮して行わなくてはいけません。

ALSが心配でしたら当院へご来院ください

当院の脳神経内科では、ALSの診療をしております。お気軽にご相談ください。

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