アミロイドーシスは珍しい病気ですが、アントニオ猪木さんが患っていたことで聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。この病気は、人体に悪影響を及ぼすアミロイドというタンパク質が、全身の臓器に沈着することで臓器障害を認める病気です。
障害される臓器は、心臓、腎臓、小腸〜大腸、末梢神経など多岐に渡ります。例えばアミロイドが心臓に付着したら心不全、心肥大、不整脈に、腎臓なら腎不全、ネフローゼ症候群に、腸なら吸収不良や下痢、末梢神経なら排尿障害、発汗障害、勃起障害を認めます。アントニオ猪木さんは、心アミロイドーシスによる心不全が直接の死因でした。
アミロイドーシスの分類
- ALアミロイドーシス(原発性アミロイドーシス):免疫系の異常によって引き起こされ、骨髄の異常なプラズマ細胞がアミロイドを生成します。これは最も一般的なタイプです。
- AAアミロイドーシス(続発性アミロイドーシス):慢性的な炎症(例えば、リウマチや結核など)によって引き起こされるタイプです。
- ATTRアミロイドーシス:遺伝的要因によって引き起こされ、トランスサイレチンというタンパク質が異常に折りたたまれてアミロイドが蓄積します。これには家族性(遺伝的)と後天性のタイプがあります。
アントニオ猪木さんは全身性トランスサイレチンアミロイドーシスという病気で、詳細は公表されていませんがこのタイプのアミロイドーシスは遺伝か加齢と言われています。検査は、アミロイドが沈着している組織を生検し、標本をコンゴーレッド染色で染めることで確定診断となります。つまり大腸なら内視鏡での生検、末梢神経なら神経生検をするということで、侵襲的な処置となります。それだけ、診断は難しい病気なのです。
アミロイドーシスの世界的な有病率
- ALアミロイドーシス(免疫グロブリン軽鎖型)の発症率は年間で100万人あたり約 9人、有病率は100万人あたり約 58人とされます。
- また、WikipediaではAL型の発症頻度を「年間3~13/million人」、AL含めた全身性アミロイドーシスの有病率は「100,000人あたり30人」(=100万人あたり300人相当)と推定されています。
アミロイドーシスの日本国内の有病率
- 日本の難病医療助成データによると、AL型・ATTR型を含めたアミロイドーシス全体の有病率は、100万人あたり約6.1人と報告されています。
- 一方、神戸大学の調査では、全身性アミロイドーシスの有病率は100万人あたり約14人、発症率は100万人あたり約2.7人/年と見積もられています。
- 厚生労働省のデータ(2014年時点)では、アミロイドーシス患者は国内で2,218人(全国)とされ、人口比で100万人あたり約17人相当となります。
- さらに、心不全の背景にあるATTRアミロイドーシス(心アミロイドーシス)では、現在国内の患者数は約5万人とされており、診断技術の進歩や治療選択肢の拡大により増加しているといいます
アミロイドーシスの主な症状
アミロイドーシスの症状は、アミロイドが沈着する臓器によって症状が異なります。
1. 心臓
- 心筋にアミロイドが沈着 → 心不全症状
- 不整脈や徐脈も起こる
2. 腎臓
- ネフローゼ症候群(大量のたんぱく尿、むくみ、低アルブミン血症)
- 腎不全が進行することもある
3. 消化管
- 下痢、便秘の繰り返し
- 吸収不良(体重減少、栄養不良)
- 消化管出血
4. 神経
- 末梢神経障害:しびれ、感覚鈍麻、手足の痛み
- 自律神経障害:立ちくらみ、便秘や下痢、排尿障害、発汗異常
5. 肝臓・脾臓
6. その他
- 舌が腫れる→ しゃべりにくい、飲み込みにくい
- 皮膚の紫斑(目の周囲に出やすい:パンダ様紫斑)
アミロイドーシスの検査
1.採血、採尿
- 血液検査
- 血算、腎機能、肝機能
- 免疫グロブリン軽鎖(sFLC:κ/λ比)
- 血清蛋白電気泳動・免疫固定法(M蛋白の有無)
- 心臓マーカー(BNP, NT-proBNP, トロポニン)
- 尿検査
- 蛋白尿(特にBence-Jones蛋白)
- 24時間尿蛋白
2.画像検査
- 心臓エコー:壁の肥厚、拡張障害、心筋の輝度上昇など
- 心臓MRI:特徴的な遅延造影所見(アミロイド沈着)
- 骨シンチ(DPDシンチなど):特にATTR型の診断に有用
- CT / MRI:臓器肥大や機能障害の評価
3.生検
- 生検部位
- 皮下脂肪、直腸粘膜、唇の小唾液腺
- 必要に応じて腎、心筋、肝臓などの臓器生検
- 染色法
- コンゴーレッド染色で「緑色偏光(apple-green birefringence)」を確認
- 蛋白同定
- 免疫組織染色
- 質量分析でアミロイド蛋白の型を確定(AL, ATTR, AAなど)
4.遺伝子検査
- 遺伝性ATTR型アミロイドーシスを疑う場合、トランスサイレチン(TTR)遺伝子解析を行う。
アミロイドーシスの治療法
アミロイドーシス(amyloidosis)の治療法は、タイプによって異なります。以下に主要な病型別に治療の概要を整理します。治療法は、アミロイドーシスのタイプによって異なります。
ALアミロイドーシスの治療法
AAアミロイドーシスに治療法
- 基礎疾患の治療が最優先
→ 抗リウマチ薬、生物学的製剤(TNF阻害薬、IL-6阻害薬)
- コルヒチン(家族性地中海熱など一部で有効)
ATTRアミロイドーシスの治療法
- トランスサイレチン安定化薬:タファミジス(Vyndaqel®)…経口薬、病状進行を抑制
- 遺伝性の場合は肝移植(現在はあまり行われない)
- RNA干渉薬(siRNA)・アンチセンス核酸:Patisiran、Inotersen など(海外中心、日本でも使用進む)
アミロイドーシスは臓器障害が進行する病気のため、以下の支持療法も重要です。
心臓:利尿薬、β遮断薬、ACE阻害薬など(低血圧に注意)
腎臓:蛋白尿・浮腫管理、透析
神経:自律神経障害に対する薬物療法(例:ミドドリン)
消化管:下痢・便秘・胃運動障害の治療
アミロイドーシスを疑った場合に受診すべき診療科
アミロイドーシスは、全身のさまざまな臓器にアミロイドが沈着する病気なので、どの臓器に症状が出ているかで最初に受診する科が変わります。
症状と受診すべき診療科
- むくみ・尿蛋白・腎機能障害 → 腎臓内科
- 息切れ・心不全症状・不整脈 → 循環器内科
- しびれ・感覚異常・自律神経障害(立ちくらみ、下痢・便秘) → 神経内科
- 消化器症状(下痢、便秘、吸収不良、肝腫大) → 消化器内科
- 全身の原因不明の症状や多発性骨髄腫が疑われる → 血液内科
専門的に診断・治療できる科
最終的には 血液内科(特に造血器腫瘍を扱う科) が中心となって診断・治療を行うことが多いです。
ただし、症状が出ている臓器の内科と連携して治療にあたることになります。
アミロイドーシスが気になったら、当院へご来院ください。
アミロイドーシスが心配でしたら、当院へご来院ください。
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