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ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、症状一つや検査一つでは診断できません。以前できていた動作が難しくなり、その変化が持続・進行しているかを確認し、神経学的診察、針筋電図などの所見、似た症状を起こす病気の評価を組み合わせて判断します。
筋肉のぴくつき、こむら返り、疲労感だけでALSと考える必要はありません。一方、物を持ちにくい、つまずく、話しにくい、むせるなどの変化が続くときは、脳神経内科へ相談してください。この記事では、ALSを疑う症状と診断・検査の流れを解説します。
ALSは、体を動かす指令を伝える運動ニューロンが障害される病気です。脳から脳幹・脊髄へ指令を送る上位運動ニューロンと、脳幹・脊髄から筋肉へつながる下位運動ニューロンの障害を評価します。始まる部位や進む速さには個人差があり、経過を一律の年数で表すことはできません。
これらはALSだけの症状ではありません。「なんとなくだるい」という疲労感と、普段の動作に表れる実際の筋力低下を分けて確認することが大切です。しびれや感覚低下は典型的なALSの中心症状ではありませんが、感覚症状がある・ないだけで確定も除外もできません。
認知機能が必ず保たれるとも限りません。一部では言葉の使い方、判断、行動などの変化がみられ、前頭側頭型認知症を伴う場合もあります。全員に起こるわけではなく、気になる変化があれば診察時に共有し、本人に合う説明や支援につなげます。
皮膚の下で筋肉の一部が細かく動く「線維束性収縮」、痛みを伴って筋肉が強く縮む「筋痙攣(こむら返り)」、手足などが一定のリズムで揺れる「振戦」は異なる現象です。「痙縮」は上位運動ニューロンの障害に伴う筋緊張の変化で、診察で手足を動かしたときの抵抗などを評価します。ここでいう筋痙攣は、てんかん発作を指すものではありません。
ぴくつきやこむら返りは健康な方にも起こり、これだけではALSの根拠になりません。回数や場所を繰り返し確認するより、日常生活で困る動作や経過を医師に伝えてください。
症状の始まり、左右差、持続や広がり、仕事・家事・歩行への影響を伺います。飲み込み、体重、息切れ、睡眠、持病、服薬、血縁者の病歴も判断材料です。いつ頃からどの動作が難しくなったかを簡単にメモし、以前の検査結果やお薬手帳があれば持参してください。
医師は筋力、筋肉のやせ、筋緊張、腱反射、病的反射、歩行、発声・嚥下に関わる動き、感覚などを確認します。上位運動ニューロンの障害では腱反射の亢進や痙縮、病的反射など、下位運動ニューロンの障害では筋力低下・筋萎縮や線維束性収縮などが手がかりになります。筋力低下は上位の障害でも起こり、各所見は一対一でALSを示すものではありません。
どの領域にどの所見があるか、経過と合うかを専門的に判断します。ご自身で反射をたたいたり、舌の動きや筋力を繰り返し試したりする自己検査では診断できません。
El Escorial基準とその改訂版を背景に、針筋電図所見の扱いを改善したAwaji・updated Awaji基準、診断の区分を簡素化したGold Coast基準が提案されてきました。Gold Coast基準も現在の診療・研究で用いられる枠組みですが、国内の制度や治療の条件がすべて同じ基準に置き換わったわけではありません。
患者さんが基準の項目を自己採点する必要はありません。重要なのは、進行する運動障害と診察・電気生理学的所見を確認し、他の病気でよりよく説明できないかを検討することです。「他の検査が正常だったからALS」という単なる除外診断ではありません。診断の考え方は日本神経学会のガイドラインとGold Coast基準・筋電図の解説を参考にしています。
診察結果から、必要な検査と調べる部位を選びます。ALSの評価で重要な電気生理学的検査にも、それぞれ異なる役割があります。
細い針電極を筋肉に入れ、力を抜いたときや力を入れたときの電気活動を記録します。神経からのつながりが失われた筋線維の活動(脱神経所見)と、残った神経が周囲の筋線維を受け持つようになる変化(再支配を反映する所見)を調べます。見た目の筋萎縮がはっきりしない部位も評価に役立つ場合があります。
例えば、力を入れたときの電気の波形が長く続く、振幅が大きい、働く運動単位の数が減るといった変化を読み取ります。これは単に「潜時が長い」という説明とは異なります。ぴくつきに対応する電気活動など、一つの所見だけではALSと確定できず、所見の組み合わせと分布、診察結果を合わせて解釈します。
針を入れる痛みや力を入れたときの不快感には個人差と部位差があります。検査前に不安、出血しやすさ、血液を固まりにくくする薬の使用などを伝えてください。処方薬を自分で中止する必要はありません。
皮膚の上から電気刺激を加え、神経や筋肉の反応の大きさ、伝わる速さなどを記録します。針を筋肉に入れて記録する針筋電図とは方法が違います。刺激を不快・痛いと感じることがありますが、感じ方は人によって異なります。
運動神経と感覚神経の働きや、信号が途中で伝わりにくくなる伝導ブロックなどを確認し、多巣性運動ニューロパチーをはじめとする末梢神経疾患との区別に役立てます。伝導速度が正常でも、それだけでALSを否定できるわけではありません。
脳や頸椎などのMRIは、脊髄の圧迫、腫瘍、脳血管障害など、症状を説明する病気がないか調べるために用います。撮影部位は症状と診察で決めます。MRIだけでALSは分からず、「MRIが正常ならALS」という判断もしません。
血液検査では、甲状腺機能や電解質、筋肉の障害をみるCKなどを必要に応じて調べます。病歴によってビタミン不足、炎症や自己抗体などの評価を追加する場合もあります。数値一つでALSを確定する検査ではありません。
髄液検査は、腰から針を入れて脳・脊髄の周囲を流れる液を採り、炎症性の病気などを調べる検査です。ALSを確定する検査ではなく、全員に必要なわけでもありません。筋疾患が疑われる場合には筋生検などを、むせや息切れがあれば嚥下・呼吸機能の検査を検討します。すべての検査を一律に受けるのではなく、目的を説明したうえで選びます。
筋力低下の原因には、治療の方針がALSと大きく異なる病気があります。必要な治療につなぐためにも鑑別は大切です。
初回の診察・検査では判断がつかず、経過を見て診察や検査を追加することがあります。その場合も「必ず半年待つ」「全員が何度も筋電図を受ける」という決まりではありません。次の診察時期と、早めに連絡すべき変化を主治医と確認してください。
検査が正常だったという結果はその時点の重要な判断材料ですが、調べた部位、時期、診察結果も踏まえて考えます。一度の結果で将来の病気まで否定することはできません。一方、症状に変化がないのに不安だけで検査を繰り返すのではなく、再評価が必要かを医師と相談しましょう。
ALSは家族に同じ病気の方がいなくても発症します。家族歴がないことと、遺伝的要因がないことは同じではありません。家族歴のないALSでも、SOD1などの遺伝子に病気と関係する変化が見つかる場合があります。
遺伝学的検査は症状・診察を置き換えるものではなく、全員に強制する検査でもありません。ただし、意義を将来の研究だけに限ることはできません。日本ではSOD1遺伝子変異を有するALSを対象としたトフェルセン治療が承認されており、検査結果が現在の治療選択に関わります。
検査前には目的、分かることと限界、結果による本人や血縁者への影響を説明し、本人が受けるかどうかを考え、同意できるよう支援します。遺伝カウンセリングの機会も相談できます。病気との関係が明確でない変化が見つかる場合もあり、結果の解釈は専門医と行います。本人の検査と、症状のない血縁者の発症前検査は別の判断が必要です。ALS診療ガイドライン追補版2025でも、家族歴のないALSを含めた情報提供と自律的な意思決定の支援が示されています。
国内で承認されたALSの薬には次の選択肢があります。いずれもALSを根治したり、進行停止や失われた機能の回復を保証したりする薬ではありません。診断後は病状、呼吸機能、臓器機能、通院・投与の負担も踏まえ、専門医と相談します。
具体的な投与条件と安全性は下記のPMDA電子添文をもとに、治療時点で医師が確認します。
薬物治療とは別に、呼吸を補助する方法、飲み込みの評価と栄養の確保、意思伝達機器などのコミュニケーション支援、負担に合わせたリハビリテーションを考えます。リハビリは生活動作や姿勢、関節の動きを支えるもので、強い筋力トレーニングで病気を治すものではありません。
希望する生活を医療・介護の担当者と共有し、必要な支援を早めに調整します。ALSは指定難病で、医療費助成には認定の要件があります。保健所や自治体、医療ソーシャルワーカーに相談できます。診療・療養の全体像はALS診療案内、通院が難しい場合の相談先は訪問診療の案内をご覧ください。
診断の根拠や治療方針を別の専門医にも聞きたいとき、本人・家族が希望すればセカンドオピニオンを検討できます。全員に必須ではなく、診断が変わることや安心できることを保証するものでもありません。
主治医に希望を伝え、紹介状、筋電図の報告、画像データ、血液検査結果などを準備し、聞きたいことを整理します。受け入れ先の手続きや費用も確認してください。待機中も、必要な治療や呼吸・栄養などの支援を遅らせないことが大切です。
持続・進行する筋力低下や筋萎縮、繰り返すむせ、食事量の低下や体重減少、続く話しにくさは早めに脳神経内科へ相談してください。息切れや横になると息苦しい状態も、放置せず医療機関へ連絡してください。
突然の片側の麻痺や言葉の異常、強い呼吸困難、窒息、意識の異常は119番です。ALSの検査予約や通常外来を待たず救急対応を求めてください。急に始まった麻痺や言語障害が一度よくなった場合も、救急相談が必要です。
ぴくつきだけではALSと判断できません。健康な方にも起こります。持続・進行する筋力低下や筋肉のやせ、普段の動作の変化がある場合は脳神経内科へ相談してください。
血液検査やMRIだけではALSを確定も除外もできません。主に似た症状を起こす病気を評価し、問診・神経学的診察や針筋電図などの結果と合わせて判断します。
正常という結果は重要な判断材料ですが、一度の筋電図だけで判断しません。針筋電図か神経伝導検査か、調べた部位や時期、診察所見も確認します。新たな筋力低下などがあれば相談し、再検査の必要性は医師と決めてください。
はい、家族歴がない方でも発症します。また家族歴がないことと遺伝的要因がないことは同じではありません。ALSと診断された場合は治療選択との関係も含め、遺伝学的検査や遺伝カウンセリングについて説明を受けられます。
脳神経内科へ相談してください。症状の始まりや日常動作の変化を伝えると役立ちます。突然の片側の麻痺・言葉の異常、強い呼吸困難、窒息、意識の異常は通常の外来を待たず119番です。
新宿で筋力低下や話しにくさなどの相談先をお探しの方は、当院の脳神経内科診療案内をご確認ください。症状の経過やこれまでの検査結果を整理し、必要な評価・専門医療機関への相談につなげます。針筋電図や遺伝学的検査、専門治療などの実施先は診察内容に応じて確認します。所在地・交通はアクセスをご覧ください。